アネクドート(小話)
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ヨーロッパを中心に活躍中の音楽家、高瀬アキさんによるページです。
欧州に移り住んで18年の高瀬さんに、欧州の様々な音楽情報について、高瀬さんが感じた事等を織り交ぜながら語って頂きます。
欧州のフェスティバル情報、欧州で人気のある若いミュージシャン情報、日本でも有名な欧州のミュージシャンたちの近況情報、更には日本のミュージシャン等の紹介等。




アネクドート


第1話
第2話
第3話




Lok.03




Procreation



AKI TAKASE piano quintet



SPRING IN BABGKOK"

高瀬アキprofile

ヨーロッパを中心にジャズ、即興音楽シーンで国際的に活躍している音楽家。1987年よりベルリン在住。
同年音楽監督アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハと共にベルリンコンテンポラリージャズオーケストラを率いて演奏活動を開始。1997年秋から2000年冬までベルリンのハンス・アイスラー大学に客員教授として招かれ教鞭をとる。ドイツ批評家レコード賞を5回、ベルリン新聞文化批評家賞(1999年)、SWRラジオ局2002年度最優秀音楽家賞、『プレイズ・ファッツ・ウォーラー』(Enja/Muzak)は2004年度ドイツ批評家賞ジャズ部門年間ベスト・レコード賞を受賞。国際的に高く評価され、世界各地で演奏活動を行っている。
最近の主な活動は、“ファッツ・ウォーラー・プロジェクト”、“アキ・アンド・ザ・グッド・ボーイズ”、の他、アレクサンダー・フオン・シュリッペンバッハ、ルディ・マハール、ローレン・ニュートンとのデュオなど。また、ドイツ在住の作家多和田葉子とのデュオ・パフォーマンスでも多くの公演を行っている。

高瀬アキ公式HP

アネクドート 第1話

ベルリンに移り住んで18年。今だ身につかぬヘタクソ独逸語に我ながら愛想つかしつつも、ジャガイモがたとえ御飯代わりであっても美味しく食べ、キチンと税金も納め、数年間大学で教える羽目になり暮らしていた時期もあったし (それが果たして社会のお役に立っていたかどうかはイザ知らず),日本に里帰りするときは、来月日本へ行くヨ!という気分であるから、もはや まぎれもないベルリン市民になってしまったワと近頃は思っている。

日本に住んでいたとき、西洋の音 (クラシックでもジャズでも現代音楽であっても )を奏でるときに,何か別の空間に身を置いて演奏していたような感じ、あるいは切り取られた時間を過ごしたような、ともすればピアノの響きが日常との関わりと遠いような薄いような、そういった漠然とした違和感が今はほとんどないと言える。

それはアジアという領域の中ではなく、西洋音楽の歴史と伝統を誇る国に住んでいて、セイヨウ楽器であるピアノを弾いているから当然!ということではない。
いつも音楽を考えている、感じている事の出来る時間がたっぷりあるからだと思っている。
“皆で渡れば怖くない式”にアクセク生きているうちに、肝心なものをどこかに置き忘れてきてしまったような日本での暮らしぶりを思い出すにつけ、ここでは音楽との時間が暮らしの中にとても密着した関係で毎日が過ぎてゆく。
フラリと自転車に乗って気楽にジャズクラブを聞くとか、芝居を観に行く、そういった事がベルリンっ子達にとっては、日常の中でごく当たり前という感じでどうやら組み込まれているようで、音楽というもの、もしくは文化などと呼ばれているものが、何か特別に構えた存在ではないからかも知れない。


今回 ぜひとも紹介したい素敵な音楽家、私とテイシュがぞっこん惚れ込んでいるミュージシャン、名前は RUDOLF MAHALL(ルドルフ マハール )、通称ルデイ。彼はニュールンベルグ出身のバスクラリネット奏者、ベルリンに越してきて10年目 38歳。
192センチという背高ノッポのてっぺんには、昔わが家の茶の間に転がっていたキューピーのような髪形、ちょっとおとぼけのにくめない顔が乗っかっている。これほど想像力豊かに自分の音を素直に表現出来て、スウング感に溢れた音楽家は居ないと思う。この数年での彼の活躍ぶりはめざましく、欧州のジャズファンをすっかり虜にしてしまった。


ちなみに彼もこのフラリの典型であります。たとえ雨が降ろうと雪の中であろうといつも御愛用のモーターバイク、もしくは自転車の後ろに楽器を括りつけて演奏会場に颯爽と登場。数年前までは赤ん坊を背負い、美しいカミサンが後ろの席に同乗して我が家に練習しに現れたものだ。最近はわが練習スタジオに半日かけてせっせと防音ゴムの壁を貼付けてくれた心優しい愛妻家でもある。

ルデイといえばサッカー。とにかくサッカー大好き人間。彼はまたサッカー( ベルリンのミュージシャン達で作られたチーム。ちなみに女、子供、誰でも参加自由 )チームのボスでもある。大抵は週1度くらい行われているバンドの練習の後に、子供を幼稚園に迎えに行き、その足でサッカー試合に駆けつける。

それにつけても彼の奏でる音は滅茶苦茶デカイ!たとえフェステイバルとか大きな会場で演奏する事になっても”ボクはマイクロフォンは要らない!とサウンドエンジニアをその場でクビ、失業させてしまうのでも有名。
音がデカイといえば、ワタシはよくよくデカイ音を出す相棒と縁があるようであります。
ルデイの前に組んでいたデユオの相棒 デビッドマレーも相当な迫力で吹いていたっけ。その当時 ほぼ同時進行でポルトガルの歌姫マリアジョアンともあちこちツアーをしていたのだが、彼女がサウンドチェックのときに「一体どうなってんのヨ。ピアノの音が大き過ぎて、まるでアンタのピアノにワタシが歌で色づけしているみたい!」と喚いていたっけ。「あらっ!そうかしらん」と ふとわが腕を見るとなんだか筋肉りゅうりゅう逞しくなったような気がする。別にヒトのせいにするわけじゃないけど、何たって昨日まで一緒に演っていた 相棒デビッドの音に合わせて弾いているうちに、どうやらボリュームがエスカレートしてしまったようである。

ついでにデカイお話をもうひとつ。ルデイが近頃書いてきた曲に”ボクのは小さい!”という何だか危ういタイトルとも受け取れる曲があるのだが、彼いわく”ジャイアント ステップス”(コルトレーン作)のコード進行を意識して書いたから、その逆さをとって題名つけただけだよと、にっこり言っておりました。

現在彼は“DIE ENTTAEUSCHUNG”,(失望という意味)、“DER ROTE BEREICH”(録音などで針が示す赤色の領域の事) グループの他、ワタシの2つのグループ、“アキと良い子たち”、それに“ファッツワーラープロジェクト”のメンバーでもあり、また亭主の持つ“グローブユニテイ”、それに 双方リーダーの“モンク全曲プロジェクト”などに参加している。私にとって音楽を演る上での最良の相棒であり、又かけがえのないベストフレンズでもある。

ベルリンに住んでから、老若男女問わず、音楽のジャンル分け隔てなく、さまざまなミュージシャンとの交流が増えた。 ベルリンの壁があいてからは沢山のミュージシャンがベルリンに住みにやってきたこともあってか、ますます音楽のフィールドが広がっているように見える。音楽という大きな傘の下という同じ仲間意識からか、ベルリンのミュージシャン達は好奇心旺盛、クラシック、ジャズ、即興音楽、ロック、ヒップホップと分けられた音楽ジャンルの中だけに留まる事なく、
お互いに声掛け合ってせっせと足運び、セッションに臨んでいる。そこから新しいグループが誕生していくのはとても興味深い。
ワタシが思う21世紀の展望は、そういった音楽の交流から生まれ育ってゆくボーダーレスの世界に今後ますます発展していくのではないかと思っている。

今 私はノルウエーの森深くMOLDEという都市に来ております。ちなみにこのモルデジャズフェステイバルは6日間に渡り開催されているのだが、プログラムを見ると、チャーリーヘーデンのグループ、アンソニーブラクソンのグループ、ロイヘインズトリオ、ヒップホップのDJ FOOD、その他、エレクトリック, イタリアの即興音楽グループなどが目白押しに演奏を繰り広げている。
どうやら“ジャズフェステイバル”と一言では括れない音楽祭がここでは催されているわけだ。さっきホテルの玄関でアメリカ人のピアニストであるマリリンクリスペルにしばらくぶりに出会った。
彼女も非常にフィールドの幅、音楽視野が広いピアニストで、即興シーンで活躍しているイギリスのバリーガイ、エバンパーカーなどと多く仕事をしている一方、ポールモチアン、ゲーリーピーコックなどと組んだトリオなどでも活躍している。
明日は、最終日。それぞれのグループの中から選抜、入り交じって演奏する事になっていて、ワタシの場合はルデイと一緒にセッションに参加の予定である。

今回ルデイを書くにあたって、彼にちょっと聞いてみたことを最後に一言。
私「アナタにとってジャズとは何?」
ルデイ「響きとスウング感のふたつがジャズのおへそ」

高瀬アキ
  (2005年7月23日 ノルウエーのモルデ市にて)

アネクドート第2話

その日、ベルリン空港で待ち合わせしていた私に、皮ジャンを着込んでパリから飛んで来た彼はまずは挨拶代わりにポケットから煙草を取り出し、さっそくの一服、笑顔を見せた。
日頃 周りのミュージシャンから白い眼で見られている煙草吸いのワタシにとっては嬉しい味方が一人増えたのである。
彼の名はLOUIS SCLAVIS (ルイス スクラビス)

今回御紹介したい音楽家 ルイス スクラビスはフランス人のリヨンに住むクラリネット奏者である。
日本にも何度か来日し、最近はミッシェル ポルタルと共にクラリネットフェステイバルなどで公演しているので既に御存知の方も多いかもしれないが、ここ数年、彼は数多くのプロジェクトを抱え、またドキュメントフィルムの音楽なども担当、作曲していて 現在 非常に実力のある演奏家の一人として絶大な人気がある。

もう8年くらい前になるが、デュッセルドルフ市の主催で若者の為の音楽コンクールが開催され、審査委員として参加したのだが、その年の審査員にルイス、それにマークス シュトックハウゼン(トランペッター),
他にも4人ほど作曲家、評論家などが居た。


このコンクールは現代音楽、ジャズを中心に若くて優れた作曲家、即興演奏家を対象にした賞。
あらかじめ各審査員達に送られたコンクール参加者たちの音源をもとに、抜粋されたグループ、音楽家達が更に1週間以上にまたがって
コンサートを行い、それらを聞いて最終決定を下すという長期間の真摯なコンクールであった。
ルイスにマークス、私達3人はジャズミュージシャンのサックス奏者マテイアス シューベルトに軍配をあげる事で、すっかり意気投合したのだが、他の4人の審査委員たちは真っ向から頑に反抗し、ここでは欧州流理屈論議がえんえんと続いた。
最終結論を決める前日の晩となり、インドレストランで皆で食事しながら、またしても長い口論と喧噪の中、突然ルイスが立ち上がり、フランスなまりの稚拙な英語で "賞というものはまずオリジナリテイー性が豊かであり、音への情熱を感じさせる、将来を大いに期待出来る音楽家にあげるべきで、その点ではマテイアス以外は考えられな い"とゆっくりと穏やかに発言した。それまでの曖昧模糊、結論が出ないままにあれこれ言っていた他の4人は彼の簡潔、明瞭な言葉にようやく静まりかえり、このルイスの助言が大きく作用してか、結果として私達3人の意見が見事に通り、その年はマテイアス シューベルトが目出たく授賞した。
この日以来 私はルイスの人間的魅力にすっかり惚れ込んでしまったのである。

今年5月、ベルリンで彼とDUETでラジオ放送の為のコンサートがあったが、彼の柔軟で多彩な音色の深さと芳醇なインプロビゼーションの想像力の広がりのお陰で、とても美しいコンサートになったと自負している。
即興演奏とは 常に瞬間瞬間の決定から音が生み出されてゆくわけで、その一瞬のひらめきとそれらを表現できるテクニック、共演者に反応出来る良い耳が大切であり、限られた時間の中でそれら全てを網羅しつつ、一緒に絵を描いてゆくようなものだと思っている。
そういう意味で、ルイス スクラビスは現在における素晴らしい音のペインターであり、またとても粋で稀有な存在である。

去年の秋 フランスのストラスブルグのフェスで共演をしたルイスのお気に入りのバスクラリネット、私の音楽相棒でもあるルデイ マハールがコンサートに聞きに来ていて、この夜はベルリンっ子達とともに皆で打ち上げの祝杯をあげ愉しいひとときの宴となった翌朝、ルイスは颯爽とまたパリへ飛びたった。 Au revoir!
( LOUIS SCLAVISのホームページ :http://sclavisfansite.jp/index.html )

高瀬アキ

 (2006年6月2日 ベルリン)

アネクドート第3話

或る日 演奏仲間のルデイ マハールが、オーネット コールマンの6枚組のCD ”BEAUTY IS A RARE THING”を持って現れた。
かなり長い間 私はオーネットの音楽を聴かずに過ごしていたので、その夜は 昔の恋人にまた出逢ったような懐かしさですっかり聞き惚れているうちに、いつのまにか外は明るくなっていた。
この6枚組はその昔オーネット コールマンがアトランテイックレコードに収録したもので 最近まとめて再発された。
1950年後半60年代始めに渡って録音された彼らの演奏を今改めて聴いてみると実に新鮮で素晴らしい。それまでのビーバップの約束事から抜け出し、自由で奔放な展開を繰り広げてゆく過程がとても興味深いし、 また当時のジャズシーンに大きな衝撃を与え、フリージャズという言葉が誕生したこれら瞠目すべきアルバムに今また気付かされた思いと、その頃よりかなり数多くの作品を書いていた彼の作曲家としての素晴らしい才能にも驚嘆したのである。
それから暫くコールマン浸けになって聞き入っていた矢先、 以前私が教えていた大学でアンサンブルコースに参加していた元学生のジルケ エバーハードに偶然に出会った。彼女の活躍ぶりや、最近とみに評判が高いことは、ときおり読む新聞の文化欄や私の廻りの音楽家達の噂から、うすうすは知っていたけれど、彼女が客員教授として南アメリカのコロンビアに行っていたせいもあって、この数年ジルケに会う機会がなかった。が、久しぶりに私のコンサートに顔を見せ、それ以来、どちらともなく声掛け合って練習を始めた。
彼女はエリック ドルフィー、オーネット コールマン、セロニアス モンクなどをとても敬愛しているようで、それは私も右に同じだから、ではこの際 お気に入りのオーネットの昔の作品を掘り下げて演奏してみようという事になり、今丁度2年半が過ぎた。


■Silke Eberhard (ジルケ エバーハード)
アルトサックス. クラリネット奏者
ジルケ エバーハードは若いアルトサックス、クラリネット奏者である。
南ドイツの田舎で生まれ育ったのんびりとしたおおらかな性格に天真爛漫な笑い顔がとても美しい女の子である。もともとメインストリームな音楽にあまり興味はないらしく、アバンギャルドな演奏に惹かれてサックスを始めたそうだ。
今回オーネット コールマン初期作品をDUOで演奏するという画期的なアイデアの2枚組のCDを作る話が決まった時には大手を広げて喜んだ次第。
彼女の練習熱心さにも感心するが、ドイツの女の子としては わりに小柄な彼女が思い切り吹く力強く元気で大胆な音が私は好きである。
これからを大いに期待される若いサックス奏者ジルケ エバーハードの今後を出来る限り応援したいと心から願っている。
*(注) なお彼女とのこの2枚組のCDはスイスのINTAKTレーベルよりこの7月発売されました。


高瀬アキ

「オーネット コールマン アンソロジー」(Ornette Coleman Anthology)
高瀬アキ(ピアノ), ジルケ エバーハード(アルトサックス、クラリネット)
オーネット コールマンの1958年から1968年にかけての初期作品を採り上げ、ピアノとサックス(或はクラリネット)のデユオ用に36曲を編曲し、演奏し収録した2枚組のCD。
スイスのレーベルINTAKTから発売 
INTAKTのHP:
http://www.intaktrec.ch/129-a.htm


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